■日本における煎茶道の開祖は、江戸時代初期に禅宗の一つである黄檗宗を開いた隠元隆gとされている。この事から、現在も全日本煎茶道連盟の事務局は京都の黄檗山萬福寺内に置かれ、同連盟の会長は萬福寺の管長が兼務することが慣わしとなっている。

 

■江戸時代初期には抹茶の茶道が形式化がすすんだため反発が増え、煎茶がその当時最新の中国文化そのものであった事などから、形式にとらわれずに煎茶を飲みながら会話を交わすいわゆる「煎茶趣味」が文化人の間で急速に広まった。江戸中期になると売茶翁により、それまで中国文化の模倣の域を出なかった煎茶を独自の方向が示され、さらに煎茶は江戸や京都・大坂を中心に上層階級に広く普及しました。煎茶は江戸末期から明治へと隆盛の時代が続いたのですが、西洋文化の流入と時代の変化に伴い、その後一時衰退しました。

 

■しかし、大正末期になると、京阪神地方の煎茶家を中心に、高遊会が結成され、煎茶復興の運動が起こりました。煎茶復興はまず売茶翁の顕彰から始め、京都・宇治黄檗山萬福寺に売茶堂を建てて、あわせて煎茶席有声軒も建てました。黄檗山が煎茶と深い関係がある事と、売茶翁自身が、もともと黄檗宗の僧であったからです。昭和3年秋に完成し、昭和4年以後、毎年盛大な煎茶会が開かれるようになりました。

 

■この茶会は、高遊会茶会として知られ、全国の煎茶家が一堂に会する大茶会となったのでした。黄檗山内に豪華な席が繰り広げられ、それは明治初期の煎茶の全盛期を彷彿とさせる程でした。その後、第2次大戦に突入して活動も休止せざるを得なくなり、煎茶復興の火は消されようとしたのでした。

 

■しかし、戦後間もなく、全国各地で煎茶は復興され始め昭和29年、黄檗山で立宗三百年大法要が営まれるにあたり協賛煎茶席が開筵されました。それを機に、全国の煎茶道の家元が参加して、連盟結成の動きがあり、昭和31年1月、全日本煎茶道連盟の結成を見たのでした。連盟が結成されるや、活発な活動が開始されました。結成の年、つまり昭和31年5月には、第1回全国煎茶道大会が黄檗山で盛大に開筵され、昭和32年5月には、月刊誌「煎茶道」が創刊されたのをはじめ、各地で各流合同の茶会なども開かれ、日本の伝統文化としての煎茶道の普及、発展のための活動がつづけられました。

 

■昭和37年には、売茶翁二百年忌を記念して、全国千席運動を起こし、この年の秋には、その一環として京都東山一帯の有名寺院などを会場に、百席茶会が開かれました。これには、全国の流派が参加し、煎茶史上に残る大茶会となりました。

 

煎茶道の道具について
煎茶の道具は種類も多く、その名称も聞き慣れない物が多いようです。同じ道具でも別称されることもあります。また同じ道具でも、流派により使うところと使わないところがあったり、また同じ名称でも別の道具を指すこともあります。特定の流派だけで使用される特殊な道具も中にはあります。

 

■茶具褥(さぐじょく) 煎茶席の道具飾りの下に敷くもので、大きさは一定していませんが、横幅は畳の幅よりやや短かく、縦は60cm位の物が普通です。材質は木綿・麻・毛織物などいろいろ使われ、無地の物や柄物があり、色も特に決まってはいません。

 

■涼炉(りょうろ)いわゆる焜炉(コンロ)のことで、煎茶独特の物の一つでしょう。大部分のものは、素焼きですが火を入れるところだけ素焼きの物をはめ込むようにして、本体は磁質のものがあり、絵つけのした物もあります。形は丸い物がほとんどですが、中には四角や八角の物もあります。大きさも大小あり、季節によって使い分けられたり、使われる手前によって選ばれたりするわけです。この涼炉を置く台として炉台があります。陶器が多いのですが、ときには古瓦を使ったりもします。涼炉に足のある場合は炉台に足のないものを使うことになっています。

 

■火炉(かろ) 普通には瓶掛けといわれるものです。一般家庭で使われる火鉢の小型のものと考えてよいでしょう。金属製のもの陶磁器のものと、その材質もいろいろ有ります。涼炉とちがって、灰を操作して火加減をするようになっています。これに、金や銀、土の瓶などをかけて湯をわかします。

 

■烏府(うふ) 炭斗(たんとう) 最近の日常生活では、炭を使うことがすくないようですが、普通に使われている炭取りのことです。小さな涼炉用の炭の入れものですから、あまり大きなものは有りません。直径20cm位までの物でしょう。竹や籐で編まれたものがほとんどですが、中には紙こよりで編んで仕上げたものもあります。

 

■火斗(かと) 火種を運ぶ道具で、一般に使われる十能(じゅうのう)のことです。涼炉と同じく、火を入れるため、素焼きの物がほとんどです。

 

■炉扇(ろせん) 涼炉の火を起こすための団扇(うちわ)です。竹や籐で編んだものが大部分ですが、中には薄い板を使ったものや、紙でつくられたものもあります。形は普通のうちわとあまり変わりませんが、大きさはずいぶん小さい物です。

 

■火箸(ひばし) 火筋(かちょ)長さ20cm内外の火箸で、一般家庭で使われているものよりずっと小さい物が使われます。

 

■炉屏(ろびょう)炉先に飾る屏風、又はこれに類するものを云います。細い竹を氷裂に組んだものや、表具仕立てのもので、絵や字を書いた物、板を使った物のなどいろいろの物が使われます。形も、二枚折りになった物、つい立て式の物など様々ですが、あまり高さのあるものは使われません。

 

■ボーフラ 湯沸かしの事です。素焼で、横手のものと上手の物がありますが、横手の物、つまり、普通の急須に似た形のものが多いようです。煎茶道具の中で、何故かこの道具だけが西洋語で呼ばれています。保宇夫良などという風に漢字で書かれたりしています。素焼のこわれやすいものであり、手入れをよくしないと、湯に臭いが出るので注意が必要です。

 

■罐座(かんざ) 瓶敷(びんしき)湯わかし(ボーフラ等)を炉から降ろしたときの台として使われるものです。竹、籐などで編まれたもの、竹の節を利用したもの(売茶翁がはじめて使ったといわれる)などがあります。

 

■水注(すいちゅう)水指(みずさし) 煎茶の手前に必要な水を入れておく器で水指(みずさし)の事です。ボーフラや急須に水をつぐのに便利な物がよいわけですが、形は千差万別でいろいろの物があります。陶磁器のものが大部分ですが、金属性の物や、ときには竹でつくられているものもあります。煎茶手前でも、抹茶のような水指を使うことがありますが、そのときには杓をつかいます。

 

■洗瓶(せんびん)煎茶の手前で、急須や茶碗を洗うのに必要な水を入れておく物です。小形のヤカンと思えばよいでしょう。注ぎ口の水きれの良いものを選びましょう。材質は銅や陶磁器などいろいろあります。

 

■滓盂(しう) 滓方(しほう) 茶滓入れ(ちゃかすいれ)茶滓(ちゃかす)を入れる器です。陶磁器のものがほとんどです。

 

■建水(けんすい) 急須や茶碗を洗った水をすてる器で、俗にいうこぼしの事です。金属、陶磁器、曲げ物などいろいろありますが、煎茶用として、ふたのついているものも多いようです。